《最大手の底力》
音楽の世界で最大のシェアを誇る超巨大メジャーのユニバーサル・ミュージック。フラメンコにおいてもそれは例外ではない。『カマロン』と『パコ・デ・ルシア』という鉄壁2枚看板を有するだけでなく、爆発的な売上に繋がりにくいフラメンコというジャンルの若手発掘になんだかんだ言って一番力を入れているメジャー・レーベルでもある(あのロサリーアもメジャー・デビューはユニバーサルだということをお忘れなく)。 更にユニバーサルは様々なレーベルを買収してきた過去において蓄積した歴史的音源も豊富。今回はそんな復刻音源がアーティスト毎のベスト盤としてまとめられたシリーズ、『El Flamenco es…』の8枚を紹介。

《カンテ・フラメンコの二大巨頭》

まずはカマロン以前のフラメンコにおける双璧とされるアントニオ・マイレーナマノロ・カラコル。あくまで『プーロ』と『ヒターノ』に拘るマイレーナはハードなカンテ・ヒターノや古いカンテを掘り起こしたものが多く、味わいも渋い。対するカラコルの芸風はよりドラマチックで、十八番のファンダンゴでは泣き節にグイグイ引き込まれるし、時にはオーケストラを従えて歌謡曲風にキメたりもする。どちらがフラメンコなのかと聞かれると、結局「どっちも!」と言わざるを得ないので、是非聴き比べてほしい。

《百花繚乱フェスティバル世代》

続く世代も個性豊か。これぞヘレス!ド直球熱血カンテ・ヒターノを盟友マヌエル・モラオの伴奏で歌い上げるテレモートに、お隣のレブリーハからはレブリハーノが幾分チャキチャキ気味なマノロ・サンルーカルのギターにノセて地元の歌をジックリ聴かせてくれる。そしてアンダルシーア各地の歌や古謡を丁寧かつ端正に歌い分けるフォスフォリートは流石『カンテの黄金の鍵』の名に恥じぬ学者肌ぶり。いずれも’70年代の夏のフラメンコ・フェスティバルを盛り上げた面々で、フラメンコの地域性による奥行き・広がりを感じる3枚である。


《三者三奏》
最後にこれまたタイプがバラバラな3人のギタリストを。巨匠マノロ・サンルーカルは流麗かつキャッチ―なギターと豪華なバックのコンビネーションが最高。反対にラモン・デ・アルへシーラスは全て歌伴奏で、彼の地味ながら歌い手たちへの気配りに満ちたギターを堪能できる。そしてライムンド・アマドールは今回のラインナップの中では一番異色な存在だろう。アルバムの大半は彼が得意とするゴキゲンなフラメンコ・ロックに溢れているが、ブレリーアでは彼がセビージャのバリバリのヒターノであることを再認識。


《ユニバーサルのこだわり》
8枚のアルバムはいずれも統一されたスタイリッシュなデザインのデジパック仕様。フラメンコの世界って、こういう『入れ物』にもこだわったアルバムがなかなか無いだけに嬉しい!そして音楽不況が深刻化し新譜すらなかなか出ない昨今において、大手の意地を見せるかのように、こういう音源を時々復刻してくれるのも本当にありがたい。キャッチフレーズ『El Flamenco es Universal』(フラメンコは普遍的/フラメンコといえばユニバーサル、のダブル・ミーニング)は伊達じゃないぞ! (Ulito)