Cádiz y sus pueblos
〜忘れちゃいけないカディス周辺のフラメンコな町々〜

 ペリコン・デ・カディスが遺した小噺を。その昔、貿易の盛んなカディスの港に大きな船が到着した。人々が積み荷をおろしていたら、一つだけ宛先も差出人も分からない荷物が見つかる。「何だこりゃ?」と荷物を開けてみると中からあらゆるフラメンコのカンテが出てきたのだ。カディスの人々はその中から特に良いカンテだけを抜き取って、荷物を包み直してそのままヘレスに送った。そしてヘレスでも同じように残ったものから良いものを抜き出して、また次の町へ…。荷物はそのままセビージャやマラガへも渡って、アンダルシーア中にカンテ・フラメンコは広がっていった。しかし、一番良いカンテはカディス県(カディスやヘレスとその周りの町々)で抜き取られてしまったので、今もカディス県には最高のカンテが残っている。

 これはもちろんホラ話であるが、カディス県内の最大の都市であるヘレスのカンテがここ20〜30年ほどフラメンコシーンを席巻している状況を見るとあながち嘘ではないかもしれない、という気になってくる。しかし、この小噺のとおり最高のカンテはヘレス以外のカディス県内の町々にも脈々と存在している。今回はどうしてもヘレスという大きな存在に隠れがちなそういった町のアルティスタにスポットをあてていきたい。

 

県都、カディス

 カディス県の県都で、ヘレスやセビージャとともに『フラメンコの三角』の一端とされる太西洋に浮かぶ小島。カンティーニャ/アレグリアス、ブレリア、タンゴ/ティエント/タンギージョ、ソレアなどで多くのスタイルを生み出し、古くは歴史上の人物エル・メジーソやアレグリアスで『ティリティタン…』のサリーダの創始者イグナシオ・エスペレータを輩出し、現代にいたるまで脈々とフラメンコが受け継がれる町だ。ナポレオンがスペインを征服した際もカディスは侵略されなかったため、当時はスペイン国家が設置されたスペイン国家における『自由』の象徴でもある。今回はここから2人の女傑を。
 まずはカディスの海が生み出したフラメンコの真珠、ぺルラ・デ・カディス。カディスのフラメンコを語る上では絶対に避けて通れない偉大なヒターナ。このコンピ盤『Perla de Cádiz』では彼女の得意とし、あのカマロンへの影響も絶大なブレリアとカンテイーニャ系が思う存分楽しめる。

 そしてペルラのフォロワーであり、ダビ・パロマール等後進も多く育成したマリアナ・コルネホも忘れてはいけない。彼女の遺作『Tela marinera』にはカディスのフラメンコの楽し・賑やかさがギュッと凝縮されている。

サン・フェルナンド

 小島カディスとスペイン本土をつなぐサン・フェルナンド。先述のナポレオンのスペイン占領の際には、本土との間のスアソ橋を壊すことでカディスへの侵攻を食い止めた町で、あのカマロン・デ・ラ・イスラの出身地でもある(カマロンの芸名のラ・イスラはサン・フェルナンドの古名、ラ・イスラ・デ・レオンから)。この町の地元密着型のインディーズ・レーベル、フラメンコ・デ・ラ・イスラからデビューしたこれからのキャリアが楽しみな2人を紹介する。
 まずは2019年のTVオーディション番組、『Gente con Arte』の優勝者ヘスース・カスティージャ『La voz de mi alma』。リリース当時41歳とデビューは遅かったものの、一節唸るだけで空気中のフラメンコ濃度が一気に上がるタイプの歌い手である。
 
  もう1人のホアキン・デ・ソラは26歳で『Principio』にてデビュー。先述のマリアナ・コルネホの弟子でもあり、隣町カディスの楽しげな雰囲気に溢れたアルバムだ。

 

チクラナ・デ・ラ・フロンテラ

 『サン・フェルナンドの海老にシオマネキ/それからチクラナのワインで口を潤す/こいつは堪まらない…』というアレグリアスの歌詞にもある通り、ワインやシェリーでも有名な町、チクラナ・デ・ラ・フロンテラ。
 この町が生んだマエストロといえばランカピーノ!今や押しも押されぬカディス系カンテの大御所となった彼が30歳の時に出した『Rancapino』はギターとパルマのみをバックにした、今回の特集の中でも激渋ながらフラメンコの滋養に満ちた作品。

 もう1人の若きマエストロ、アントニオ・レジェス『Que suene el cante』は反対にディエゴ・デル・モラオのモデルノかつフラメンコなギターと、ルイス・デ・ペリキンのポップなアレンジで耳あたり良く仕上がった、これまた佳作。新旧のマエストロの全く違うフラメンコへのアプローチを聴き比べるのも楽しい。
 

 

サン・ロケ

 イギリスの飛地ジブラルタル(ヒブラルタル)との国境を守る町、サン・ロケ。この地にはタブラオ全盛の時代にマドリードで活躍したローケ・モントージャ・ハリートとその一族のルーツでもある。そのファミリア出身でアントニオ・マイレーナのアルテに傾倒するカネーラ・デ・サン・ロケ『Flamenco en Lavapiés』はひたすら熱いライブ盤だ。本人のテンションも高いし、ギターのクーロ・デ・ヘレスの演奏も素晴らしい。オマケに観客のコンディションも仕上がっているという場の空気が真空パックされている。

 更にその息子のホセ・カネーラのデビュー盤『Un romance con el cante』も熱い。父カネーラも聴き比べると、父の持つマイレーナからの影響は薄れているものの、熱量はそのまま継承されているのが面白い。参加ギタリストはいずれも伴奏名人。特に父カネーラの伴奏をしていたペリキンの息子マヌエル・ヘロとの息子同士共演は相性も最高だ。

 

アルコス・デ・ラ・フロンテラ

 最後にカディス県北の山岳地帯の断崖に位置するアラブ時代からの城塞の町、アルコス・デ・ラ・フロンテラから出てきた、ラ・ファビデビュー作『fruto y flores』を。数々の踊り伴唱で鍛え上げた、パン!と勢いのある歌声は作り込まれたアルバムのアレンジにも一切埋もれることのない頼もしい存在感を放っている。決して大きい町ではないアルコスからも、こんな鉄火女が出てくるのである。
 

 

他の町も忘れるなかれ…

今回は上記5つの町にスポットを当てたが、カディス県にはまだまだ
●あのパコ・デ・ルシアの出身地アルヘシーラス
●マリア・バルガスやサジャーゴに、マノロ・サンルーカルまで輩出したサンルーカル・デ・ラ・バラメダ
●期待の若手サムエル・セラーノやコプラの大御所ロシオ・フラドの故郷チピオナ
●カンテ・ヒターノ最後の砦、アグヘータ一族の本拠地ロタ
などなど、とんでもないフラメンコを生み出す町々がある。改めて言うがヘレスにばかり注目が集まっている近年ではあるが、その周辺にも是非注目して深掘りしてほしい。そして豊かなフラメンコの土壌を味わいつくそう!(Ulito)