モロン&ウトレーラのフィエスタ!

 今回ご紹介の「ソロ・コンパス/エン・ビボ」シリーズは、現代の業界シーンでは稀少な、フィエスタのライヴ録音である。フラメンコのふるさと、モロン・デ・ラ・フロンテーラとウトレーラへ、製作のOFSチームが赴き、地元名手を集めた宴を開催、ドキュメントタッチで編集した。雰囲気を忠実に取り込むためモロン編は午後3時から夜12時までマイクをオンにしたままだったという。当時は四半世紀前、1998年の収録だが、この種のフィエスタは、本場アンダルシアでも少なくなっていた、とOFS創業者でギタリストの友繁健人氏は述懐する。臨場感あふれるアイレが詰まった、貴重なタイムカプセルの中身を、ダイジェストでお届けする。(※「デスデ・ウトレーラ」に歌詞は付いておりません。)

真剣勝負のフィエスタ! モロン精鋭の即興カンテ

「エン・ビボ/モロン編」は、「VOL1ブレリア編」と「VOL.2タンゴ・ソレア・アレグリアス編」に分かれ、基本的には各曲種にギター伴奏付きと無しの2パターンが収録される。この伴奏有無のポイントとは何か? 「伴奏無しで踊り、歌うことは非常に難しい。普通ギターが常にリズムを刻んでいるからです。しかし一方で、より狢╋柔瓩呂△蠅泙后アーティストは「その場のキーに合わせること」に頓着せず、自分の好きなキーで、次々歌うことができますから」(友繁氏の西語解説より/筆者訳、以下同)
 フィエスタの定石通り、リレー形式で歌を回すのだが、1曲が長い本シリーズはその輪が何周もする。冒頭のブレリア(伴奏無し)は16分強、前半3曲だけで何と50分超!通常なら大体10曲分にあたるボリュームだが、全曲歌詞付きなので、こうした即興の行方を細部まで追うこともできる。男が「cuchillo(ナイフ)」と歌えば、次の女は「puñal(短刀)」で繋いだり、意味の通らない単語を咄嗟に用いたり、スキャットで凌いだり。歴史・人生・恋愛まで、テーマは非常に広汎だ。何より、一流同士の即興の応酬を、つぶさに追体験できる点が、本作一番の醍醐味と言えるだろう。  ホセレーロの孫やフアナ・アマジャの従兄弟、アンドラーノの息子といった、二世&三世を含めた参加十人のアーティストの実力は申し分なく、純粋なライヴアルバムとしても極上の仕上がりと言える。モイ・デ・モロン(カンテ)、フアン・デ・フアン(バイレ)といった、日本ファンにお馴染みの二人も、若かりし日の本名でクレジットされている。

ウトレーラのブレリア祭り 素顔のアルティスタたち

 フェルナンダ・ベルナルダ姉妹や、バンビーノ、エンリケ・モントージャ――偉大なるウトレーラ・ヒターノ一族の新類縁者、総勢三十人を集めての大宴会の模様を実況中継したものが、本作「エン・ビボ/ウトレーラ編」。CD編DVD編の収録曲はほぼ同じだが、モロン編と大きく異なるのは、撮影状況のきわめてカジュアルな雰囲気だ。
 カメラ正面へ扇形に座るアルティスタたちの服装もバラバラで、最年長の爛┘襦Εチャーラ瓩魯瀬屮襪離后璽弔縫好ーフを巻き、ポケットチーフを挿す盛装の一方、有名人ガスパール・デ・ウトレーラは普段着同然のポロシャツ。女性陣はさすがにドレスアップ組が多いが、この雑然さが地元の寄り合いに潜り込んだ気にさせる。
 ウトレーラのカンテの特徴の一つに、ブレリア歌謡がある。コントラを多用した高速ソニケーテの駆使よりも、スローテンポで歌唱の内容に軸を置くスタイルだ。本作では同地の現役スター、マヌエル・デ・ラ・アングスティアが、地元の先輩バンビーノの得意曲だった「詩人は泣いた(El poeta lloró)」を、立ち上がって両手を広げ、派手なアクションを交えた演劇的パフォーマンスで熱唱、大喝采を浴びた。
 冒頭のタンゴ2曲をのぞき、収録曲の大半はこうしたスローなブレリア。出演者は自分の番が来ると、必ず輪の中心へ出て歌いながら踊るのだが、この各人各様のパフォーマンスが本作のハイライトと言えるだろう。
 DVD編冒頭でガイド役を務めたホセ・ヒメネスの軽妙さ。マリア・ロレトの余裕、メルセデス・ペーニャの艶やかさ。一瞬走り抜けるだけのガスパール‥‥。誰も凝ったパソや振付を見せるわけでない。仲間のパルマに身を任せ、リラックスして手足を緩やかに動かす――フィエスタの場では、それだけで十分と思わせる場面が続く。輪の中でパレハになり、退場 まで一連のナチュラルな動線など、参考になるフィエスタ作法は多い。
 ラストシーンを飾る子供たちのブレリアも見所。ホセ・ヒメネスやピティン・デ・ウトレーラの息子らなのだが、アルティスタの二世とはいえ、小中学生の時点での歌いぶりはどこか微笑ましい。「ソニケーテと共に、コンパス豊かに載せて歌うのさ」と、か細い声で歌っていたエンリケ・モントージャの甥、フアン・ルイスは、現在「フアンルー・モントージャ」の芸名でヒットを連発するポップス歌手へと成長している。(※「デスデ・ウトレーラ」に歌詞は付いておりません。)

 フラメンコ究極のエッセンスが詰まった、華やかなフィエスタの世界。気軽に楽しむのもよし、即興の奥義を極める一歩にしてもいい。友繁氏はモロン編のライナー「ギター無しのフィエスタ」の最後にこう述べている。 「もしこんな風に踊り、歌うことを楽しめるようになったら、もうあなたは正真正銘の爛侫薀瓮鵐魁Ε廖璽蹲瓩任后廖蔑察

(中谷伸一)