誰しもがチャコンのカンテに真の讃辞を贈った！しゃがれ声だけがフラメンコではない。
飯野昭夫（フラメンコ研究家）
これを入手した時の筆者の感想は「凄い，エラいものが出たものだ。流石はスペイン！」というものであった。フラメンコ歴の長い方ならチャコンの名を知らぬ者はあるまい。19世紀末から20世紀前半にかけてマヌエル・トーレと覇を競った巨匠である。トーレの全レコードの復刻版は既に1997年に発刊されたが，チャコンの方は，時代別にいくつか復刻版が出されたが全レコードの復刻版は2011年になるまでなかったのである。それが今回のこの作品は全レコードのみならず，円盤形のSP盤レコードが流通する前の録音媒体である蠟菅録音を４つも含んでおり，最古のものは何と1899年に録音されたものであり，その音質もさほど悪くはない。流石はスペイン，と驚嘆したのもこのためである。
284頁からなる豪華な解説本も素晴らしい出来映えで，チャコンおよびその歌に関する情報も豊富であり，収録されたカンテにはすべて歌詞が付いている。一曲ごとに詳しい解説がついており，しかも伴奏のギター演奏に関してもかなり詳しい考察がなされている。
カンテに対し鍛えられた耳を持つ者以外は，チャコンの声質ゆえにフラメンコらしさを感じられないかも知れないが，かつて存在したカンタオール達はジプシーであるなしを問わず，誰しもチャコンのカンテに真の讃辞を贈っていたのである。前回推薦文を書いた最もジプシー的なニュアンスを持ったホァン・モハーマ然り，ニーニャ・デ・ロス・ペイネス然りである。しゃがれ声によるものだけがフラメンコ的ということではないことが知れよう。ともあれ，フラメンコの歴史において最も重要な人物であるチャコンのカンテがこの様な素晴らしい形で今，我々の前に提示されたことは喜ばしいかぎりである。
★100年以上前のシリンダー録音４曲を含めた、アントニオ・チャコン全録音！
CD: 1＝Que tienes por mi persona (Malagueña) /Si yo con vender mis carnes / Malas puñalás te pegen (Soleares)/Por tu causa yo me veo / Muchas son mis penas (Seguidillas gitanas)/Llamo a la muerte / Qué bien te camelo (Seguidillas)/Me acabaras de una vez / Son picaros tartaneros (Cartageneras)/Porque tiro las barrena / No haya perlas a millares (Cartageneras)/A qué tanto me consientes / No me habías de conocer (Cartagenera)/………………………..